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愚行録

愚行録

貫井徳郎

★★★★☆

イヤミスらしいイヤミスですよね。貫井作品らしいなと思います。

「途轍もなく陰鬱な小説を書いてしまった」と作者自身が漏らしたというこの作品。

確かに陰鬱、かつ人間不信に陥りそう。

ただ、彼の著作にはもっと残忍な描写のある作品が多いんですよね。殺人の経緯なんか結構細かく描写されているのですが、この作品には、そういった直接的な描写は一切無し。

じゃあ何がそんなにも陰鬱であるのか。

 

舞台は池袋から少し離れた完成な住宅街。

大手建設会社に勤めるエリートサラリーマン、その美人妻と子供2名の一家が惨殺されるという事件が起きます。

この小説は、近隣の住民や大学や職場の同僚が事件を探るルポライターに取材を受けている体で進みます。

 

一体何がそんなに陰鬱かという話に戻るが、とにかく、ルポライターや被害者一家に対する好奇心や、表には出さない悪意のようなものが見事に描かれている。

「いつでも取材に来てくださいね」というスタンスの人もいたけれど、いや、あなた絶対ほかの人にペラペラ喋りたいだけでしょう。みたいな部分とか。

あとは被害者夫妻、実はそんなに良く思われてなかったんですよね。

無自覚の悪だったのか確信犯だったのかは読者におまかせと言ったところなのでしょうか。

なのに「それでもいい人でした。あんな目に遭うなんて信じられません」みたいな話を見ていると、ああこういうものだよねぇとより陰鬱になってくる。

1章ごとの最後に謎の兄妹(妹視点)の会話も入ってて、この内容がまた良くない。被害者が上流階級の人間である分、酷い生活を送っている兄弟の落差が酷い。

そして、ラストは流石貫井徳郎叙述トリックがうまいの一言。

素敵なキャストで映画化もされていますが、

まずは欲しい1冊でした

愚行録 (創元推理文庫)